案件概要

農作を妨げる土壌の塩類を資源に活用。塩害に悩む他地域に、順応的な土地活用の例を示す。

森林の過伐採に起因する農地土壌の塩類化と、所得の不安定さという問題を抱えるタイ王国コンケン県の農村。ここに、「農地塩類のカスケード型利用システム」を提案・導入する。

雨水は、地表、地下水、蒸発池と移動する中で、塩分濃度を上げていく。その各段階に応じて耐塩性作物生産や製塩などを行い、塩類を使いこなすシステムだ。

土壌塩類化の改善と、生業の複業化による農家所得の安定、さらには塩類を新たな資源として活用する順応的な環境ガバナンスの明示の、3つの達成を目指す。

対象領域:地球環境
助成年度:2017年度
研究助成助成期間:3年(2018年4月~2021年3月)
対象地域:タイ王国・コンケン県・バンパイ地区

 

 

カスケード型利用システム最下流における蒸発池の塩類集積

研究背景

世界の塩類土壌について

  • 塩類土壌=世界の陸地の3.1% (397 Mha) (FAO, 2005),
  • 農業に起因する塩類土壌 = 76.6 Mha (Oldeman et al., 1991)
  • 塩類土壌は気候変動や人口増加によって増加 (Rengasamy, 2008)

 

タイ王国コンケン県における塩類土壌問題

 

  • 東北タイの約 17% は塩類化しており (LDD, 1991)、塩類の起源はマハサラカム層から
    来ているといわれている
  •  東北タイの水田は607万haであり、タイの全水田面積の約58%を占める。しかし、土
    壌劣化と塩類化により生産力は低い (Kimura et al.,1990)
  • フラットな地理的な理由から、灌漑開発は難しい (Fujii et al., 2012).
  • 東北タイでの除塩は、水資源開発と灌漑排水設備の面から多くの困難に直面している

 

研究目的

 

土壌塩類化の再定義(Rethinking)
―塩類は害のある物質ではなく、資源である―

本研究では,農地における土壌塩類化問題を、従来の

 

  • リーチング(塩分の洗脱)
  • 排水改良
  • 地下水管理

 

などではなく、

 

  • 超学際的に構成された研究グループ
  • 農地塩類のカスケード型利用システム

により塩類管理を実現し、
-課題(塩類)をチャンス(資源)に転換する順応的ガバナンスのありかた―
を明らかにすることを目的とする。

 

研究方法

 

農地塩類のカスケード型利用システムの構築
(CSUS: The Cascading Salts Using System)

 

本研究では、

図に示すような塩類のカスケード型システム(CSUS: the Cascading Salts Using System)を圃場に導入し、水・塩分管理を実現する。

CSUSは、各コンポーネント間における水と塩類の動的な連鎖システムであり、上流域における流出水が下流への流入水になり、その過程で利用可能水量が減少しながら塩分濃度が上昇していく性質を利用するものである。

各コンポーネントでは、水量・塩分濃度を考慮した適切な作物栽培や製塩を行う。

 

具体的な研究目標

 

CSUSを軸とした3つの研究達成目標

 

  • 農地土壌における塩類化の軽減
  • 乾季における農家の生業オプションの開発・強化
  • 塩類土壌を有する地域の環境ガバナンスのモデル化

 

農地土壌における塩類化の軽減

CSUSによる土壌塩類の管理

 

乾季における農家の生業オプションの開発・強化

 

  • 伝統的製塩による食卓塩の製造・販売強化
  • 耐塩性作物栽培による所得向上
  • 漁業の導入
  • 環境教育・エコツアーの実施による地域認知度の向上

 

塩類土壌を有する地域の環境ガバナンスのモデル化

 

  • ステークホルダー間の関係性(利害関係等)の明確化
  • 地域外組織・機関等とのネットワーキングの構築
  • 地域住民の意識調査の変革
  • 生業複業の強化による資源(水・土・塩類)管理の方法